STUDIO UGOKI

EVENTS
UGOKIのティータイムシリーズ
次に期待するエンターテイメントは!?
市川さんとお話しました!


現在『ROBBER'S COMPANY』を制作しているUGOKIですが
これからどんなエンターテイメントが期待されるのか
メインキャラクターモデルを担当してくれた市川博昭さんと
高尾と蛯沢で話をしてきました。

まずはこれからについて考えるためにも
この夏から大ヒットを続けているアニメーション映画
『君の名は。』についての話から始めてみました。




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ファンタジーとして欲望される恋愛

高尾「『君の名は。』は見られましたか?」

市川「高尾君に行けと言われたので(笑)、見てきましたよ。」

高尾「確か娘さんは高校生でしたよね。見られてないですか?」

市川「娘は今受験勉強の追い込みで、映画どころじゃなくて。
それでも学校の友達は結構観に行ってるらしく
聞くところによると概ね女子受けはよく、男子諸君にはいまいちって
感じだったみたい。僕個人としては自分くらいの歳の人間が見るには
色々な意味で厳しい作品と思いましたが、観に行った時は
割と大人が多い印象でしたね。平日の午後だったからかもしれない。」



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市川「この作品を観に来てるお客さんはその動員数からして
殆どは新海誠の作家性みたいなものを前提とはしていない層という
気がします。今回は中高生の間でもカジュアルに話題に
なっているということなので、作家を知る上でもとりあえずルーツであるところの
『ほしのこえ』を家で子供と見ることになり、
たまたまその場に妻もいたので結局家族で見ることになって。」

高尾「おぉ!家族で…」

市川「ファミリーで見るような作品じゃないですけどね(笑)。
でもあの短い作品に新海誠の本質って全部入っていると思うんですよ。
娘のほうはあの独特な作風と展開に始終困惑の様子でしたけど
妻が見終わった後にポロッと、昔読んだ萩尾望都のSFっぽい、と。
なるほど少女マンガのSFというのは
何かを正しく言い表している気がしましたね。」

高尾「今って、恋愛が難しくなってるっていうのもあって
割りと幅広い世代に受け入れられたのかな、とも取れますね?」

市川「それは欠落しているが故に欲望されるというやつで
文字通りのファンタジーですよね。 作品が欠落を語るのではなく
欠落を作品が埋め合わせるという。」



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セカイ系、日常系、なろう系

高尾「90年代後半のエヴァンゲリオンに始まり
2000年代に入って新海さんをはじめセカイ系と言われるような作品が
沢山生まれましたが、近年は数が減った気がします。
そんな中、新海さんは基本的に変わることない作風で作り続けた結果が
今回の『君の名は。』大ヒットへと繋がった背景もあるのかもしれませんね。」

市川「セカイ系"~"日常系"っていう流れは
ゼロ年代オタクコンテンツ史観としてほぼ定着していると思うのだけど
その後に続く2010年代の流行の一つに"なろう系(※)"というのがあって。
その"なろう系"的なものが表象しているのは、現実には満たされない欲望を
仮想世界で擬似的に満たす、という感性のあり方で
SF的アイデアとしては新しくないんだけど
違うのは主題が疑似世界とリアルの相互干渉や葛藤にではなく
異世界でのゲーム的冒険や登場キャラとのコミュニケーションにのみ置かれている。
つまりあらかじめ現実や成長に対する諦念があるわけで
その感覚と、VR元年って言われている今の世相って
綺麗に重なってきている気がするんですよね。
『君の名は。』は直接的には繋がらない作品ですけど
受容のされ方にはどこか通じるものがあるような気がしています。」

高尾「VRという技術の発達と共に"なろう系"に続いていくような
新しいジャンルの流れができていきそうですね」


(※)小説家になろうでは多くの小説が投稿されているが
その中でもかなりの割合で似通った設定の小説が多い。
特に「現代社会で生活する主人公が異世界に行って活躍する」
というものが多い。これらの小説ジャンルは「なろう系」と呼ばれている。

[ニコニコ大百科より抜粋 http://ur0.link/zdK2]



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貧しいリアルと快楽のバーチャルを繋ぐ
エンターテイメント

市川「2013年のフランス映画に『コングレス未来学会議』という作品があるんですが
複雑な話の筋は置いておくとして大まかな世界観としては
現実がテクノロジーにより次々とバーチャルに代替されていく近未来が舞台で
そのバーチャル空間には自由で摩擦の無い享楽的な社会があり
一方の現実にはとても貧しい世界が広がっているという設定になっている。

物語は最初実写で始まり
とある化学薬品を飲むことで主人公はアニメ絵のキャラクターになって
ヴァーチャルな世界に入っていくんだけど、
薬が切れたとたんに見えていた2Dアニメ絵の風景が
ボロボロの服を着た貧しい市民がボヤ~っと立ってる実写画面に
フェードしていく、その画が僕は凄く良いと思ったんですよ。
貧しさとバーチャルリアリティの快楽みたいなものが直結する感覚が
短い映像の中に集約されている。

この国にとっても結構当事者性のあるテーマだと思うんだけど
そういった作品ってなかなか生まれないですよね。
エンターテイメントとはいえただ気持ちがいいというだけではなく
気付きや含みのある物が見たいじゃないですか。
UGOKIではそういった方向を目指してみるとか。」



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高尾「小さなチームでやっていると、どうしても立ち居地的に
そういうところになっちゃうんですかねぇ…
メインストリームじゃないところにいってしまう。」

市川「オルタナティブを模索していきましょうよ。」

蛯沢「でもそういうのを発信できる人って必要ですよね。」

市川「必要だと思いますよ、だって今、本当にないですよね。
カルチャー批評みたいなものは存在するし
それに呼応するような作品もアンダーグラウンドにはあるのかもしれないけど
可視化されるには拾い上げる仕組みが必要で。
でもネットって結局数値を稼がないと浮かんでこないという世界なんで
そうするとどうしたって批評性のあるものって難しくて
どんどん見え辛いところに沈んでいっちゃう。
そこで期待していますよ。これからの高尾君に。」

高尾「いやいやいや、困りますよ(汗)
でもだんだん自分達の立ち居地が浮き彫りになっていくのかなぁ
みたいな実感はありますね。それはしかたないのか…」

市川「いいと思いますよ。」

蛯沢「今から新海さんというか、完成されたアニメの世界に
立ち向かってもしょうがないですもんね。」

高尾「うん、『君の名は。』を見てほんとそう思いました。」



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蛯沢「普段作業をしていると、高尾と二人でしか話さないので
今日はためになりました。」

市川「それを言ったら僕なんて一人で勝手に思ってるだけだから(笑)。」

(一同笑い)

高尾「今日はどうもありがとうございました。」



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市川博昭

1969年生まれ、愛知県出身。
大学卒業後たまたま小さなソフトハウスでAMIGAと3DCGに触れ
気づけば生業に。複数のプロダクション勤務を経たのち
1999年よりフリーランスとして独立。




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 2016.10.25